コピの部屋

好きなもの・人に対しての想ひを語ってみます。お子様ランチ記事を目指します!

おとぎ話『ゆー太郎』【言霊ショートストーリー】

 

 

おとぎ話『ゆー太郎』 作:コピ

 

ある村に、ゆー太郎という若者がおりました。
ゆー太郎は森の奥の洞くつで寝泊まりをしています。
なぜ村の外れで暮らしているかというと、村のみんなから嫌われているからです。

 

ゆー太郎は、すぐ安請け合いをしてしまうんです。
いわゆる舌先三寸の男。
「わかりました!やっておきます!」
その時は、やるつもりがあるんです。
でも、しばらくすると、約束したこと忘れてしまいます。
本人に悪気はありません。
やろうとしたのは本当ですから・・・。

 

「おい、ゆー太郎。お願いしていたアレはどうなった?」
「何でしたっけ?」
「お前なぁ」
言ったことをやらないゆー太郎に村人はみな怒り心頭。
働いていた先でも約束を守れず解雇されました。
無一文のゆー太郎は仕方なく、森の洞くつで生活することとなりました。

 

「なんでこんなことになったのだろう」
ゆー太郎は、ぼやきました。
「やれると思ったから、やる!と言っただけなのに。
 出来ないと、みんなすぐ怒るんだよなぁ。
 約束がどうこう言うけどさぁ。
 やろうとする気持ちが一番大事なのに。
 出来ないからって約束しない人が本当に正しいの?」
ちっとも約束を守らないゆー太郎に罪悪感はありません。

 

ある日のこと、村が大きな地震に見舞われました。
洞くつで暮らすゆー太郎も恐怖を感じます。
「うわぁ!ど、洞くつが崩れるぅ!」
地震は収まりましたが、洞くつの奥の方が崩れていました。
ゆー太郎は目を凝らします。
崩れた場所から、なんと、老人が出てきました。
「大きな地震じゃったのー」
ゆー太郎は感じ取りました。
「この人はきっと神様なのだ」と。

 

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お腹が空いたという老人に、ゆー太郎は木の実を渡しました。
「神様、どうぞ、お召し上がりください」
老人は言いました。
「私は神ではないが、ありがたく頂くぞ」
その日から、ゆー太郎と老人の共同生活が始まりました。
老人は足を怪我しているようで、洞くつから出ることさえままなりません。
ゆー太郎は老人の為に、森で食べ物を調達します。
「今日は甘い果物が食べたい!」
老人の要求は日に日にエスカレートしていきます。
神様に喜んでもらえば何か良いことが起こる、そう思うゆー太郎は必死に頑張ります。

 

ある日の晩、ゆー太郎が作った葡萄酒を飲みながら老人が言いました。
「なぁ、ゆー太郎。お前はなぜ村人と距離を置くのだ?」
ゆー太郎は、約束を守れなかった過去の話をしました。
「なるほど。ゆー太郎よ。これからは言ったこと、約束したことを必ず守るのじゃ。一度発した言葉には魂が宿ると言われておる。それを忘れてはいけない」
「はい!わかりました!神様」
「神ではないがのぉ。ハハハ」
少しの沈黙のあと、老人はゆー太郎の目をしっかりと見て言いました。
「ゆー太郎よ。お前が望むものはなんじゃ?」
ゆー太郎の心は張り裂けそうでした。
今までの努力が報われる・・・そう思ったのです。

 

「神様!オラは、天下を手に入れたい!天下が欲しい!」

 

老人は頷きました。
「わかった。ただ、自分で発した言葉は絶対に守ること。それからな、果実酒以外の酒も飲みたいのぉ」
「はい!おまかせください!」

 

「天下を取っちまえば、この村はオラのものになる。オラを馬鹿にした奴らに目に物見せてやるゾ!」
野心を抱くゆー太郎は、なおいっそう老人に尽くすのです。
村の民家を一軒一軒回るゆー太郎。
「お金はあとで必ず払うから、お酒を分けてください!」
土下座をしてお願いします。
最初は断っていた村人も、ゆー太郎の熱意に負けお酒を分け与えます。
「絶対に金を払えよ!」
「わかりました!必ず」
ゆー太郎は、発した言葉を絶対に守ろうと心に誓うのでした。

 

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「おー、今日は暖かくて気持ちがいいのぉー」
足の状態が良くなった老人は、洞くつの外へ出ました。
「ゆー太郎よ。お前には大変世話になって」
「いえいえ。とんでもないです」
老人はゆー太郎を散歩に誘い、山の奥の奥へと進んで行きました。

 

「ゆー太郎よ!これをお前にやろう!」
「?」
ゆー太郎の前には、今にも壊れてしまいそうな古い家がありました。
「か、神様。どういうことでしょうか?」
状況が把握できないゆー太郎は老人に聞きます。
「ほれ!お前が欲しいと言っていたものだ。もう使わないから、やる!」
「え?オラはそんなこと、言ってないです」
「いいや。民家(みんか)が欲しい、手に入れたいと言っておったぞ」
「オラが言ったのは、天下!天下(てんか)です!」
「いやぁー。民家と言ったと思うがな」
「民家なんて、ゆーたこと無いです!!」

 

ゆー太郎は、廉価(れんか)な民家(みんか)いわゆる『貧家(ひんか)』を手に入れた。

 

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「オラは、こんな家の為に頑張っていたのか・・・」
ゆー太郎の怒りは頂点に達します。
老人を力いっぱい殴ってしまいました。
殴られた老人は、大きな穴に落ちて消えます。
「あっ!神様・・・」
ゆー太郎は、急いでその大きな穴に飛び込みました。
着いた先は、なんと、自分が住んでいる洞くつだったのです。
そして、倒れた老人が起き上がることは二度とありませんでした。

 

村人との約束も、結局、守れずじまい。
この村で、ゆー太郎の言葉を信じる者は誰一人いません。

 

ゆー太郎は、『貧家(ひんか)』と共に『前科(ぜんか)』も手に入れたのだった・・・。

 

 

 

おしまい

 

この物語はフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。