おとぎ話『太陽と月』 作:コピ
今日もみんなに時を知らせるため、日が青空を一直線に歩きます。
「あっ、もう、体力の限界・・・」
地球という村に、二人の女の子が住んでおりました。
太陽と月です。
太陽は明るく活発で、とても正義感の強い性格でした。
一方、月は容姿が美しく、お金持ちの家で何不自由なく育ちました。
ある日のこと、神様は二人を呼び出しました。
「皆に時を知らせている日がもう歳でのぉ。そろそろ交代する時期だと思っている。二人のどちらかにお願いしたいが・・・」
二人は顔を見合わせます。
太陽は元気よく答えました。
「お日さまは、私の憧れです。私にやらせてください!」
月は控えめな声で答えました。
「私もやってみたい・・・です」
太陽は月に向かって言いました。
「任された以上は、責任を持って最後までやり抜かなきゃダメ。あなたに出来るの?」
月が少し考えてから答えます。
「たぶん・・・大丈夫」
「そんな気持ちで続けられる?」と太陽。
「でも・・・」
神様が止めに入ります。
「まぁまぁ。じゃあ、二人にこれを渡そう」
神様は二人に最古の花と呼ばれる『潘氏真花』の種を渡しました。
「では、この花を先に咲かせた者に、日の仕事を継いでもらう」
二人は大きく頷きました。
広場の真ん中に、二つの鉢が並べられています。
自分の名前が書かれた鉢に、楽しそうに水をあげる太陽。
一方、月は何も起こらない鉢を見るのに飽きてしまい、家でゴロゴロしています。
どちらの鉢からも芽は出ず、かれこれ半年が経ちました。
「やったー!」
太陽の鉢の表面に小さな芽が顔を出しました。
「私が、お日さまになるんだから」
太陽は張り切って世話を続けました。
それから2か月・・・。
太陽の鉢の葉はすくすくと成長しました。
しかし、月の鉢の葉も同じくらいに成長していたのです。
「ど、どうして?」
太陽は愕然としました。
不思議に思った太陽は一晩中、広場の鉢を見張ることにしました。
深夜1時ころ、月の鉢に近づく影がありました。
月の家に雇われた執事です。
月の鉢に水をやり、肥料を与えるとそそくさと帰っていきました。
「ズルい」
太陽は腹を立てましたが、月より早く花を咲かせてやると強く心に誓いました。
ですが、太陽の気持ちとは裏腹に、一生懸命お世話している葉の成長が止まりました。
一方、月の鉢の茎はぐんぐん伸びています。
「こんなこと、あっていいの?」
太陽は何かに取り憑かれたように急いで家に帰り、農薬を持ってきました。
農薬に濡れた月の鉢を見て我に返りました。
自責の念に駆られた太陽はトボトボと家路につきました。
熱が出て寝込んでしまった太陽が広場にやってきたのは、それから3日後です。
自分の鉢は相変わらず、しかし、農薬をかけた月の鉢は今にも花が咲きそうなほど成長していました。
それを見た太陽は、どんな生き物も殺せるという強い薬を用意しコッソリかけました。
「絶対、私が、お日さまに・・・」
もう、気持ちを抑えることが出来ません。
数日が経ちました。
太陽は、美しい花が咲いた自分の鉢と、茶色に枯れている月の鉢を交互に見ました。
「なんてことをしてしまったのだろう・・・」
月に謝ろうと思いましたが、どうしても日になりたかった太陽。
何もなかったように神様を待ちます。
一方、月は鉢を見て呟きます。
「お日さまになりたかった・・・」
広場に到着した神様が二つの鉢を見て言いました。
「勝者、太陽!」
それを聞いた月が大声を出して泣きます。
その姿を見て、複雑な表情を浮かべる太陽。
不憫に思った神様は、月に夜空を歩いて人々に時間を知らせるという新しい仕事を与えました。
月は、とても喜びました。
日の代わりとなった太陽ですが、神様からの指示に困惑しました。
「太陽よ!もっと、眩しく!もっと、ギラギラと!」
責任感の強い太陽は、神様の期待に応えるよう一生懸命に頑張りました。
一方の月は、楽しそうに星空を歩いています。
「夜の空もいいもんだなぁ」
ある日のこと、青空を見上げていた子どもが、お母さんに言われました。
「目が悪くなるから、太陽を直接見ちゃいけないよ」
一方、夜空を見上げた男女が話をしていました。
「お月さんが綺麗だ。キミと同じくらい」
「やだぁ」
褒められる月に嫉妬した太陽は、ちょっとした意地悪を始めました。
月と人々の間で傘をさし、月の顔に影を作ったのです。
欠けてしまった月を見て人々は言います。
「欠けたお月さんも美しいね」
それを聞いた太陽は激怒しました。
「月をこの世から消さなきゃ」
太陽は、以前『潘氏真花』を枯らした薬を手に、月の元へ向かおうとしました。
「もう、おやめなさい」
「か、神様・・・」
太陽は、涙ながらに訴えました。
「私、こんな生活に耐えられない!
神様は、なんで私を選んだの?
勝負に負けた月は、みんなに『お月さん』って呼ばれます
私はいつまでたっても、迷惑な眩しい太陽・・・。
誰も『太陽さん』と呼びません。
私だって、私だって、さん付けで呼ばれたい!」
神様は微笑みました。
「それは、今後のあなた次第ですよ」
太陽は心を入れ替えて頑張りました。
何があろうと、明るい笑顔で毎日を過ごします。
たとえ人々が、日傘をさして太陽を見ないようにしても・・・。
数年後、太陽の努力が実りました。
なんと、ある一部の地域では太陽のことを「サン」と呼ぶようになったのです。
子どもからお年寄りまで、皆が口を揃えて「サン(Sun)」と呼びます。
太陽は呟きました。
「でも、サン・・・だけじゃあ・・・ねぇ・・・」
この物語はもちろんフィクションです。
実在の人物やドラマや伝説などの影響は一切受けておりません。