コピの部屋

好きなもの・人に対しての想ひを語ってみます。お子様ランチ記事を目指します!

葛藤する芸人のショートストーリー『お怒り芸人』

 

 

『お怒り芸人』 作:コピ

 

 

僕の職業、お笑い芸人
そもそも、お笑い芸人って何だろう?
嘘をついたり、非常識な発言や行動をしてみたり、意味のわからないことをして笑いを誘発する人間のこと、らしい。
まぁ、おかしなことをして他人を笑わす職業ということだ。
そんなことは分かっている。
他人を笑わすことの出来ない僕は、お笑い芸人失格だと思う。

 

 

お笑い芸人と胸を張って名乗れるような成功者はほんの一握りで、殆どの芸人は自分が何者かも分からない状態に陥る。
今の僕が正にそうだ。
寝ていないのか?食べたのか?笑われているのか?分からなくなった。
「みんなの笑顔を見たい」という気持ちと「芸人で食べていく」という本心とが、せめぎ合う。
ある日、僕は、舞台の上で気を失ってしまった。

 

 

病院で告げられた病名に驚いた。
アマノジャク病。
精神的な病気の一種、とのこと。
僕が何か理想を掲げると、それに相反した行動を取ってしまうらしい。
人を笑わそうと思えば思うほど、深層心理でそれの邪魔をする。
劇場は静まり返り、お客は硬い表情でこちらを見る。
僕は、芸人として終わっている。
辞めようと何度も思った。
でも、仕事の依頼は途切れることが無かった・・・。

 

 

捨てる神あれば拾う神あり。
そんな言葉が頭をよぎる。
僕は依頼人の期待に応えるためにビジネスをする。
笑い声から一番遠いお笑い芸人。
それが今の僕かも知れない。

 

 

僕の理想は、陽だまりのような笑いを提供すること。
だから、人を傷つけたり、攻撃するようなネタは絶対に作らない。
みんなが理解出来るような分かりやすさも信条。
だが、どうだろう。
最近の僕のネタと言えば、一部の人間にしか理解されない政治のネタ。
他者を馬鹿にするような噛みつきネタ。
自分が意図しないネタを作ってしまう。

 

 

僕に仕事を与えてくれる人への恩返しは出来ていると思う。
これは、ただのビジネスだ。
相変わらず客席には、笑顔も、笑い声も無い。
ただ、ブラックジョークを何とか理解しようとする真剣な眼差しがあるだけ。
「アメリカでは政治を笑いにする」などと、自分に言い訳をした。
虚しくなった。
ここは、日本だ。
繊細な日本人に対し、いくつもの伏線を用意して笑いを取る技巧派芸人が羨ましい。
本当はそんな笑いを目指したい。
今の僕は『お怒り芸人』。
話題のモノに毒づいては、賢そうに振舞って、ただ文句をたれるだけ。
お笑い芸人の本来の意味とは、真逆のことをしている。
笑いを取れないけど引っ張りダコのお怒り芸人。
僕は何処へ行くのだろう・・・。

 

 

この日本で勝負したい。
アメリカ風味のスタンダップコメディなんてやりたくない。
子どもからお年寄りまでみんなを笑顔にして幸せな気持ちにしたい。
強く強く、僕は想う。
でも、強く想えば想うほど、相反した行動を取ってしまう僕の病気。

 

 

僕は、アメリカで、お怒り芸人を、名乗ることにした。

 

 

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この物語はフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。