むかしむかしあるところに、ある夫婦が住んでおりました。
夫は勉強が出来るが喧嘩っ早く、妻はとても気性が荒い人でした。
そんな夫婦に、赤ちゃんが生まれました。
世間からズレている夫婦は、生まれた男の子に「逆衛門」と名付けました。
別に、貴男でも貴志でもいいのに・・・。
逆衛門の体はみるみる大きくなりますが、心の方はあまり育ちませんでした。
ちょっとひねくれた性格になってしまったのです。
同級生が「この漫画おもしろい」と言っても、「これのどこが面白いの?どういうセンス?心理描写が今一つじゃない?」と言う逆衛門。
なかなか友達が出来ませんでした。
学校は楽しくありませんでしたが、家の方がもっと楽しくなかったのです。
贔屓の野球チームが負けると暴力を振るう父と、全ての行動を干渉する母との生活が耐えられません。
逆衛門は、勉強をしました。
朝も晩も、勉強を頑張りました。
親と離れる為に、この国で一番賢くて有名な大学を目指しました。
逆衛門の努力が実を結び、見事に合格することが出来ました。
逆衛門に、変な自信がついてしまいました。
「勉強なんて独学で出来るし、学校は必要が無い!」
そんなことを言い出します。
ただ、他者を口撃する歪んだ性格の彼を見て、周りの人は思います。
「あなたのような人間を作らないように学校があるんだ」と。
彼の心は、勉強からお金へと変わっていきました。
お金があれば、人が寄ってきます。
逆衛門は、お金の力で良い人間関係を作ることが出来ました。
もう一つ、人を惹きつける能力を得ました。
「人と逆のことを言う」です。
世間と真逆のことを言えば、一目置かれます。
それが分かってからは、逆の言葉を言い続けました。
名が体を表したのです。
世間が「危険」と言えば、「安全だ!」と言い、「動いちゃいけない」と言えば、「動かないなんて馬鹿じゃないの?」と言います。
大人のくせに、言葉遣いはこどものままの逆衛門。
でも、一定数の「逆衛門信者」を獲得することに成功しました。
頭の良い考え方をするのに、ちゃんとした人付き合いをしてこなかった人間特有の身勝手さが出てしまい、世間の評価はイマイチです。
ある日、逆衛門は大親友たちと飲食店へ行きました。
その飲食店の入り口に「マスクしない客お断り」と貼り紙がありました。
逆衛門は、無性に腹が立ちました。
「食べる時にマスクを外すのだから意味が無い」そう思いました。
確かにそうですが、飲食店の店主は、客の感染リスクの意識を問うてるだけなのです。
他人の心を理解出来ない逆衛門は、店にクレームをつけます。
それだけでは気が収まらず、SNSで拡散しました。
例の「逆衛門信者」が、その飲食店にイタズラ電話を掛けまくります。
思い通りになった逆衛門は大満足です。
逆衛門は、マスクを毛嫌いする理由が、自分でも分かっていません。
理由は簡単なのに・・・ね。
曲がりに曲がった人生を送ってきた逆衛門。
「真っ直ぐ」という言葉が大嫌いです。
まっすぐ・・・ますぐ・・・マスグ・・・ マスク
まぁ、そういうことです。
自分の講演会でも、大嫌いなマスクの着用を禁止にします。
たぶん禁止にします。
禁止・・・のはずです。
おしまい