「南方先生。これは何をする物なのですか?」
「咲さん。これは“布マスク”と言って、人を菌から守ってくれます」
「新型のコロリも大丈夫なのですか?」
「はい。使い方によってですが」
「ぬ、ぬの・・・名前はなんでしょう?」
「布マスクです」
「布、真っ直ぐ?」
「・・・はい。咲さん。これは、布真っ直ぐ、です」
「左様で」
「薄い布を重ねて、両端に紐を通す穴を作ります。細く真っ直ぐに」
「あぁ。だから、布真っ直ぐなのですね」
「は、はい。紐を通したら結んで輪っかにします。それを耳にかけます」
「真っ直ぐを付けるとどのような効果があるのですか?」
「ウイルス、いえ、コロリは口や鼻の粘膜から侵入することで感染します。ですから、口と鼻を守るのです。ただ、布マッ、スクの表面にコロリが付着していることも考えられますから、真っ直ぐを触る前と後で手を洗わないといけません。そして、目からも感染しますから眼鏡も付けると良いでしょう」
「承知しました!」
“布ますぐ”のことが、江戸中に知れ渡った。
町人の為に中居屋が大量に生産し販売を始めた。
中居屋は大変評判となり、お店にある他の商品も飛ぶように売れた。
その噂を聞いて、面白くないのは越後屋。
越後屋は画策する。
そして、代官の小場氏の元へと向かった。
「お代官様、よいお話が」
「なんだ、越後屋」
「江戸に広まっている布ますぐで一儲けするのは如何でしょう」
「ん?どうするのじゃ」
「布ますぐに家紋を入れます。庶民は必ずこの家紋入りますぐを使わねばなりません。それ以外の使用は禁じます。強制的に配って銭を払わせます」
「藩が潤うという訳か」
「いいえ。潤うのはお代官様でございます。私どもで家紋入り布ますぐを作って配ります。1枚50文にしましょうか。1枚配るごとに、お代官様へ5文お渡し致します」
「コロリの為と言って強制的に配るのか?」
「おっしゃる通りでございます」
「越後屋!」
「は、はい」
「1枚配って6文にならぬか?」
「・・・お任せください。フフフ」
「越後屋。おぬしも悪よのぉ~」
「お代官様こそ」
二人「ハハハハ」
越後屋はもう一つの計画を進めていた。
「1枚50文の家紋ますぐは高いから、庶民は中居屋のますぐをこっそり使うことだろう。そうならない為に今あるますぐを全て買い占め、中居屋に火を放つ。買い取ったますぐを高値で売れば、こちらからも儲けが出る。フフフ」
「なぜでございますか!」
「なんでも個人で布ますぐを作って売ることが禁じられたそうです。個人的に作るますぐはコロリに効果が無いとのことで・・・。家紋入りの50文ますぐか、中居屋製の40文のますぐを使うしかなさそうです。諦めるしかありません。咲さん」
「私たちなら20文で作れます・・・。悔しいです。南方先生!」
強制的に配る家紋入りますぐと転売ますぐで儲けを出し続ける越後屋であったが、代官の小場氏に見つかってしまった。
小場氏は、家紋ますぐの賄賂を10文に変更、転売ますぐからも10文を要求した。
越後屋と小場氏は儲け続けた。
庶民の生活は苦しいまま何も変わっていない。
え?
子孫ですか?
このおはなしはフィクションです。
実在の人物や時代背景や団体などとは関係ありません。
そして、全国の越後屋さん!すみませんでした。