コピの部屋

好きなもの・人に対しての想ひを語ってみます。お子様ランチ記事を目指します!

部屋とYシャツとストーカー【本当にあった歪んだ恋のはなし】

 

まだ部屋の明かりが点かない。
今日は帰りが遅いね。
俺は、窓が見えるこの場所で、いつものように君の帰りを待つ。

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長い髪と高いハイヒールは小柄な細身の体を隠す迷彩アイテム。
濃いメイクをして香水の香りがする若い女。
清楚とは真逆、きっと学生時代から遊んでいる軽い女。
それが里紗に対する第一印象だった。
4歳年下の彼女が俺の会社に入ってきたんだ。
正直、かなり苦手なタイプ。
男に媚を売る目つきをしたかと思えば、見下したりもする。
高級ブランド品で武装して見えもしない敵を意識しているのが俺にはわかる。
水商売のかさぶたをつけたままなのかも知れない。

 

俺は賃貸マンションの管理会社に勤めている。
里紗はその管理会社のマンションに住んでいる入居者だった。
更新手続きで来店した時に、うちの会社の求人を知って応募したそうだ。
それを聞いてまず感じたのは、仕事探しに対する舐めた気持ちだ。
適当に応募して入れた会社に勤めている俺。
何だよ、それ。
やっぱり、この女は気に入らない。

 

里紗がこの会社に入って半年が経ったある日。
いつものように会社の仲間と飲みにいった。
座敷の居酒屋で、男女7人。
今日は珍しく、恋愛の話になった。
里紗は同じ地元の男と同棲してること、結婚しようとしてたこと、その男と別れそうなことを話していた。
それを聞き「一人暮らし用の部屋で同棲するなよ。しかも勤めてる会社で管理しているマンションじゃないか」とイラついた俺。
大嫌いな恋愛の話題ということもあり酒のピッチが上がる。
気がつく頃には、かなり酔いが回っていた。
座っていても、フラフラする。
後方に倒れていく瞬間、小間使いのように酒を運ぶ里紗とぶつかった。
俺のYシャツに、ビールとウーロンハイが染み込んでいく。
「ごめんなさい!すみません!」
里紗は謝りながら、俺の肩のあたりを拭いている。
俺は、濡らされたシャツなんてどうでも良かった。
彼女が近くに来てわかったのだが、俺が好きな香りをつけていた。
香水と口紅の色、俺の好み。
なぜ、俺の好みを知っているのかは分からない。
帰りは方向が同じという理由で、里紗と同じタクシーだった。
タクシーを降りた記憶、玄関の鍵を回す記憶は残っている。
Yシャツを着たままベッドの感触と共に眠りにつく。
里紗は俺に気がある・・・と確信したのは、翌朝目覚めて少ししてからだ。

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部屋の明かりは、まだ点かない。
さっき、変な目つきをしたサラリーマンが俺の横を通っていった。
守るものが無い人間はお気楽だ。
君を守れるのは俺しかいない。
俺は、彼女が助けを求めた日のことを思い出していた。

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里紗が、俺に気持ちがあるとわかってから色々考えたんだ。
彼女の想いに応えることが今俺がするべきことなのではないか、と。
しかし、職場でも飲みの席でも彼女との距離は変わらなかった。
彼氏と別れたばかりだし、いきなり別の男へ、それもないだろうな。
俺ができるのはきっかけを作ることで。
ちょうど今日は、俺の28回目の誕生日。
里紗には「いつものメンバーで飲みに行くよ」と伝えてあった。
会社では、俺と里紗が二人きりで会うことが知れ渡っている。
誰も邪魔はできない。
お膳立てって面倒だけど、少し楽しくもある。
こうでもしないと、彼女の本心が聞けないのだから。
洒落た店で二人、軽く飲む。
みんなを待つ里紗、「他のメンバーが来れない」と伝えるとなぜか帰ろうとする。
女の気持ちはさっぱりわからない。
必死で帰ることだけは思いとどまらせた。
里紗は男を振り回すタイプの女とは知ってはいるが、かなり骨が折れる。
落ち着いてまた飲み始めた。
他愛のない話の中、俺の胸を刺すような言葉が彼女の口から発せられた。
「私、彼と仲良くやってますよ」
信じられない、全く信じられない。
その男に何か脅されているのか聞いてみるが彼女は否定する。
事情はわからないが、“何かある”ことだけは感じる。
俺は感じることができるんだ。
後々の計画を練るため、今日は早めに切り上げることにした。
こんな屈辱的な誕生日は初めてだった。

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秋は過ごしやすい季節と言うけれど夜はかなり冷える。
コンビニで温かいコーヒーを買う。
いつもの場所に戻るが、部屋は暗いままだ。
刑事の張り込みをイメージさせるが彼女は犯人ではない。
刑事と同じなのは、正義感を持ってここに立っているということ。
ふと思い出すのは、悲しみに満ちた彼女の表情、その日のこと。

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里紗の部屋の玄関先で、彼女は激怒した。
感謝ではなく激怒だ。
これ以上しつこく付きまとわないようにと、俺が元カレに教えてあげた。
一体、何が気に入らないというのか。
たぶん俺の説明に不満を持っているのだろう。
出来ることなら恋人に向かって自分の手を汚した話をしたくないと思う俺。
だから、簡単に簡単に、説明するように気を使った。
里紗には、その男の身の回りで起こったことを三つ伝えた。
「俺の女に近づくと災いが起こる」という警告の手紙が届いたこと。
電車通勤するその男が痴漢で捕まったこと。
男が働いている会社へ痴漢の連絡を入れたこと。
「里紗を傷つけると罰を受けることになると・・・」
里紗は話しを途中で遮った。
これ以上、話を続けて欲しくないのだと理解した。
俺も辛い思いをしたし、好きになった男が汚れていく姿は彼女も嫌だろうな。
冷静になった俺は泣いている彼女を一人にしてあげることにした。
自室に戻り里紗の気持ちが俺のみに向かっている感覚を楽しんだ。

 

次の日。
里紗は会社を休んだ。
泣かせてしまったことは気になったが、それより前の男の報復が怖かった。
俺が彼女を守る。
俺しか彼女を守れない。
守るためには、俺が彼女の住まいを見守る必要があった。

 

あの日から、里紗の部屋の窓に明かりが点くまで俺は待っている。
じっと待っているんだ。

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会社を休んでいた彼女がやっと出社してきた。
無事であることは、勿論知っている。
目が合っても俺と話をしようはしない彼女。
里紗にとって、今は生活が変わろうとしているデリケートな時期。
戸惑う気持ちはよくわかる。
包むように彼女を見つめる。

 

ある日のこと。
いつもの場所から里紗の部屋を見上げた。
珍しく明かりが点いていたんだ。
鼓動が早まる。
「まさか?」
俺の脳みそをあの男の影が覆った。
軽いめまいがあったが、たじろいでいる場合ではない。
すぐ彼女の部屋に電話をかけた。
留守電のメッセージが流れるだけ、部屋に変わった様子はなかった。
しばらくして、“電気の消し忘れ”というつまらない理由に胸を撫で下ろした。
次の日から、部屋に明かりが灯ると「電話をかける」という作業が追加された。

 

最初の頃は帰宅した里紗と一言二言会話をしたが、そのうちに電話に出なくなった。
それでも俺は満足していた。
部屋の電話が鳴ると窓を開け、里紗が辺りを見渡すからだ。
声だけではなく、姿を見れた方がより安心だ。

 

里紗は会社に長期休暇の届けを出した。
実家に帰省するらしい。
お互い気を張る生活が続いていたから、彼女にはゆっくりして欲しい。
休んでから三日目の夜、里紗の裏切りの疑念を拭うため実家へ連絡を入れる。
里紗の母親が電話に出た。
俺は彼女の仕事ぶりなどを伝えて丁寧に電話を切った。

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部屋の明かりが灯った。
一日の中で、俺が一番安堵する瞬間だ。
相変わらず彼女は電話に出ないが繋がりは感じる。
俺は、彼女が一番幸せな日のことを思い出していた。

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実家から戻った里紗は、俺と話がしたいと言った。
怒ったような声で「一晩過せばいいんでしょ」と言ってきた。
突然で驚いたが、やっと素直になれたんだと感じた。
恋人同士が上る緩い階段は無かったが、それでいいんだろう。
それが君の望みなのだろう。
二人が幸せに包まれている間、彼女はずっと泣いていた。
こんなにも綺麗な涙を俺は知らない。

 

数週間後、彼女は会社を辞め実家に戻ることにしたようだった。
精神的に辛いのは見ていてわかる。
あの日以来、俺を避けるようになってしまった。
里紗なりに考えるところがあったのだろう。
彼女を愛しているからこそ、自由に飛び立って欲しいと願っている。

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~それから2か月後~
里紗は実家へ引っ越した。
寂しがり屋の君を想う。
君の実家のそばで見守り続けようと考えている。
それまでは、君が住んでいたこの部屋に俺が住むことにしよう。

 

君のためなら、何でもできるよ

 

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少し脚色をして、ストーカー目線のストーリーに仕上げましたが、ほぼ実話です。
実際の『俺(ストーカー)は、実際に引っ越した後の里紗の部屋に住み始めます。
『里紗』は仮名で、僕(コピ)の昔の恋人です。

僕と里紗が付き合っている期間も、実家にストーカーからの電話があったそう。

 

・・・。

 

お読み頂き、有難うございました。