『友達以上、恋人未満のクリスマス』
作:コピ
降り出した雪が目に入った。
目から涙となって流れ出した。
ひと粒。
たった、ひと粒だけ。
それだけのこと。
去年、山登りに行った。
山頂がすぐ近くにあるように見えた。
実際にはかなり離れていた。
わたしの距離感がおかしいだけ。
それだけのこと。
「クリスマスは誰と過ごそうかなぁ?」
彼の言葉がわたしの心に突き刺さった。
わたし、じゃ、ないんだ・・・。
二人の距離はかなり近いと思っていた。
わたしの距離感はおかしいからね。
きっと、ただの勘違い。
きっと、ただの友達。
最近の彼は忙しそう。
2か月前に転職した仕事を必死で頑張っているみたい。
「仕事とわたしとどっちが大事?」
そんな質問をする彼女にはなりたくない。
完全歩合のハードな仕事。
「このご時世に宝飾品なんて誰も買わねえよ!」
彼の愚痴を聞いてあげるのがわたしの役目。
わたしは彼の弱い部分も知っている。
今日はクリスマスイブ。
彼からの連絡はない。
雪が降る予感はあった。
でも、一人のクリスマスは予感してなかった。
淡い期待なんてしなければ、こんな気持ちにはならなかったのに・・・。
瞳からこぼれる水の粒。
目に入った雪だけが原因じゃないみたい。
言いたいことを言い合える仲。
駄目なところを指摘し合える仲。
わたしたちの距離は近すぎたのかも知れない。
でも、そういう人って貴重かも。
たとえ恋人じゃ無くても、わたしにとって大切な存在。
幸せなんだよ、きっと。
多くを望んじゃいけない。
わたしは恵まれているんだから・・・。
でも、なんでだろ。
涙が止まらない。
もうすぐ、わたしのイブは終わる。
遠目にわたしの住むアパート。
今日はなんだか、はるか向こうに感じる。
視界を遮って降り続く雪のせいだ。
通り慣れた道だから距離感は間違ってない。
わたしの家はすぐそこ。
アパートの前に人影。
見覚えのあるコート。
彼だ。
転ばないように駆け寄る。
「どうしたの?」
あえて不思議そうな表情を浮かべ、彼に声をかけるわたし。
だけど視線は、彼が持っているプレゼントへ。
サイズ的に指輪のケースっぽい。
なんか、わたしって嫌な女。
「よろしくね」
彼が照れくさそうにそう言って、指輪、いや、プレゼントを差し出した。
「う、うん💕」
こうなることを夢見てた。
でも、夢に終わると思った。
だけど、夢じゃなかった。
彼は足早に去って行った。
仕事がまだ残っているみたいだね。
なぁんだ。
彼のクリスマス、仕事と一緒に過ごすんじゃない。
わたしは彼の後ろ姿に手を振った。
頬を伝う涙は、うれし涙に変わっていた。
わたしの彼氏は、こんなサプライズを用意する人だったのね。
「彼氏」って言っちゃった。
なんか、わたしって嫌な女。
ケースを開くと目映く光る指輪。
そして、手紙。
実はわたし、彼のことを意外と知らなかったのかも知れない。
こんな素敵な男性、他に居ないかも・・・。
わたしは四つ折りにされた手紙を開けた。
せ、請求書!?
この物語はフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。