『彼女とセミの共通点』 作:コピ
ケヤキ並木も秋の気配に。
落ち葉の絨毯は、僕の足取りを重くした。
夏が短すぎて、セミもなき忘れたのではないのか?
普段は滅多に寄らない果物店に入った。
好みを思い出せないが、きっと何でも食べるだろう。
僕は、彼女が入院している病院へと向かった。
病床から身を起こした彼女が笑顔で迎えてくれた。
青白い顔の彼女の瞼(まぶた)は、今にも閉じてしまいそうだった。
「大丈夫?」
大丈夫じゃなきゃ困るから、僕は大丈夫かと聞く。
「うん、大丈夫」
大丈夫じゃないけど、大丈夫と言っているのは分かる。
「そういえば、今年はあんまりセミの鳴き声を聞かなかったね」
瞼を閉じたら、彼女がずっと起きないような気がして、僕は無理やり話を振る。
「ほ、ほんとだね」
彼女は答えた。
「頑張って鳴いてもらわないと困るよ」
「うん」
「セミの一生は短い・・・」
僕は言葉を飲み込んだ。何の話をしているのだろう。
「ううん。セミの一生は意外と長いみたいよ」
彼女が気をつかって話を続けてくれた。
「3年以上も土の中で過ごしているんだって」
「おっ!じゃあ、虫の中では長生きだ」
「うん」
セミは人間からは見えないけれど、土の中で青春時代を過ごすんだ。
木にとまって鳴いているのは、自分の一生を語っている姿なんだね。
セミの一生は長い。
僕と彼女の関係は、セミが土の中にいる時間よりも短い。
そう、これからじゃないか。
好きが恋に変わって、恋が愛に変わって。
彼女は一人で立つことが出来ないが、僕が支えると誓った。
僕たちは大丈夫だって信じてる。
セミの一生のように、長く、永く。
「・・・」
彼女の瞼は閉じていた。
「あ、亜紀・・・もっと話したかったなぁ」
僕は、彼女の頭を撫でながら呟いた。
彼女は、海外の連続ドラマにすっかりハマってしまっていた。
消灯時間を無視して、こっそり観ているのを僕は知ってる。
僕よりもドラマを選ぶのね。
真昼間に眠くなるのは、不規則な生活をしているからだ。
憎たらしい彼女の頭を優しく撫でる。
彼女の髪型は、セミロング。
僕は、彼女の左足のギプスを見て舌打ちをする。
この物語はフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。