旗色が悪いよ。
なんで俺が国民議会に呼ばれているのかねぇ。
ある国の国民議会。
本日のお題は、死刑制度について。
人権擁護弁護士と極刑存置大学教授の戦いになりそうだ。
「諸外国では既に死刑制度が廃止になっています」
出たよ、諸外国。
じゃあ、全て諸外国の真似して議会なんて止めちゃえよ、面倒くさい。
そんでもって、あいつの顔、嫌いなんだよなぁ。
人権の擁護をほざくボケ前橋。
人権って、犯罪者の擁護じゃねえか。
被害者のこと考えたことあるんか?前橋ちゃんよ。
「・・・教授、教授」
「あ、はい」
「よろしくお願いします。例の件、大丈夫ですから」
「えぇ」
正直、俺はどっちでもいいんだよね。
死刑があっても、無くっても。
知り合いの政治家先生が「死刑制度を守りたい!」と熱心にお願いするものだから、引き受けちゃったよ。
しかも、今日の議会はテレビ放送されるらしい。
俺の発言が国民の総意のように、マスコミが動く予定だって。
でもね、このまま死刑制度は廃止になるんじゃないかな。
そう思う。
それよりも、彼女のことが気になるよ。
ロールキャベツ、赤か白かなんて、どっちでもいいじゃない。
あんなに怒るかね?
「君の作りたい方で」って言えば良かったのか。
何でも、どっちでも、いいよ。
「では、福島教授のお考えは如何ですか?」
俺の番か。
全国民が俺の言葉を待ってる、って言われてもねぇ。
「えー、じゃあ、被告人に決めさせるのはどうですか・・・ね」
「どういうことですか?」
「ですから・・・被告人に極刑が良いか聞くんですよ」
「は?」
議会がざわめきだした。
人権弁護士たちが騒ぎ出す。
前橋が俺を見下した目をしている。
廃止と存置、双方の政治家が立ち上がる。
極刑存置派の若手議員が怒っている。
「教授、どうするんですか!」
「えっと・・・」
政治家たちが議長の元へ集まる。
「ぎ、議会を一旦中断します!」
国民議会は、30分後に再開される予定だ。
何とかしなければならない。
ならないのだけど、どっちでもいいよ。
でも、死刑制度を残さないと、怒られるんだろうなぁ。
怒られるの、嫌いなんだよ。
とにかく、何か考えないと。
被告人に選ばせる、というのは悪くないと思う。
そこからだよ。
選択肢のもう一つを思いっきり厳しい罰にすればいい。
極刑と同等の。
「会議を再開します」と、議長の声。
質問席には前橋。
「福島教授にお伺いしますが、先程の被告人への質問は、本気でおっしゃっているのですか?私には理解できません」
「ですからね。被告人に選択権を与えるんですよ。いいでしょ」
前橋が呆気にとられている。
「前橋先生の希望通りになると思いますよ。だって、被告人全員が極刑を選ばなければ良いのですから」
「で、では、死刑制度廃止に賛成ということでいいですね?」
「前橋先生、聞いてました?廃止したら選択肢が無くなるではないですか。僕は被告人に選択させたいのです。それが民主主義でしょ?罪を犯しておいて、その罪を償えないのであれば、刑法なんて必要ないですよ。違います?」
「・・・」
気分爽快。
あの前橋弁護士を煙に巻いてやったぞ。
ここからが大変だけど。
福島教授の「被告人極刑選択制度」が決まった。
マスコミの影響で、多くの国民の支持を得たからだ。
死刑制度は一応、残るかたちとなった。
被告人が選択できる「もう一つ」は何だろう?
福島教授がやけくそで考えた選択肢。
それが「国立研究センター行き」だ。
「教授、本当にありがとうございました」
「いえいえ。人類のためになりますから」
「死刑制度は残りましたが、自ら選ぶ人間なんていませんよね?」
「それが、そうでもないと思いますよ」
「え?」
福島教授が考えた「国立研究センター行き」。
国立研究センターとは、国の高度医療を実現するための場所であり、遺伝子・細胞・臓器などの治療研究や薬の開発が行われている。
受刑者の役目は、その施設内で医療発展に協力をすること。
簡単に言えば、人体実験の被験者だ。
施設内にある独居房に入り、24時間監視される。
一度、研究センターに入ったら、外部と連絡を取ることを許されない。
センター内で起こった事件・事故について、一切、センター職員の責任にはならない。
また、センター職員は、施設内で銃の使用を許可されている。
職員が気に入らない受刑者は毒薬を飲まされる
逃げようとした受刑者が射殺された
実験に必要だからと指を2本切断された
夜中に受刑者たちのうめき声が聞こえる
受刑者が減り続けセンターが大変困っている
国立研究センターについての噂話がある。
これは、俺が流したデマだ。
すると、どうだろうか。
自ら極刑を求める被告人が増えたんだよ。
今日の裁判でも、責任能力の判断が難しいから、とりあえず“センター行き”を言い渡された被告人が叫んでたな。
「ぼくを極刑にしてください!」って。
そんな判断能力はあるんだ。
おかしいね。
人類の為に一肌脱ごうという犯罪者はいないのか?
いないか・・・。
んー、ちょっと考えてしまうんだ。
本当にこれで良かったのだろうか?と。
それよりも、今は、彼女だよ。
シチューが、白か茶かなんて、どっちでもいいじゃない。
「君の作りたい方でよろしくね!」
本当はね、どっちでも、いいよ。
このおはなしはフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。